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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

”It’s still the economy, stupid!” いまだに経済こそが重要だ、愚か者め

FRBは過去1年にわたり金融引き締めを模索しており、先日公表されたFOMC議事録では、「原油安は一時的現象であり、インフレ期待感は依然存在する」というイエレン議長の発言がゼロ金利解除の根拠を示している。利上げ実施宣言は、景気に過熱感があるからではなく、リーマンショック以降続いて来た超緩和策を終了し、より正常な状態に戻すという決意表明と受け取れる。

リーマンショック以前の景気拡大局面では、2006年6月に最終利上げが実行され、住宅バブルの崩壊が始まり、翌2007年末に景気後退期に突入した。ブルームバーグ社の山広恒夫記者は「今回はゼロ金利政策が6年以上も続いてきたため、株式や債券など金融バブルがほとんど何の制約もない中で、異常な規模に膨らんでいる可能性がある。ここまで来ると、もはやFOMCが利上げをしてもしなくても、金融バブルは自らの重みでいずれ崩壊する。しかも、金融バブルの規模が前回以上に膨れ上がっている。」と警戒している。

 

http://www.bloomberg.co.jp/article/2015-04-10/a7i2_NADeJhs.html

 

当然、金融市場は利上げによるリスクを十分感知し、市場参加者の関心は利上げのタイミングに集中している。イエレン議長と市場のやり取りを見ると、利上げによる市場の混乱を最小化すべくお互いにシグナルを送り合い、タイミングを探る様子が感じられる。金融市場の飽和感に対する引締めを模索するうえで景気のピークをうかがうという、実体経済と金融政策の「本末転倒な関連性」がみてとれる。

折しも、先日、ヒラリー・クリントン氏が2016年大統領選挙に正式に立候補を表明した。先のリーマンショック直後には、米国で初めての黒人大統領が登場した。次の金融ショックの後には、米国で初めての女性大統領が登場するかもしれない。あるいは、金融・経済の正常化を目指すことから、米国民は非黒人男性の大統領を望むかもしれない。利上げのタイミングから、この夏場から来年にかけて市場は大きな変動に見舞われるだろうから、共和党・民主党のいずれの候補も「”It’s still the economy, stupid!” いまだに経済こそが重要だ、愚か者め」を肝に命じ、国民経済を成長に導く政策を柱に選挙戦を戦うことになるだろう。

かつてビル・クリントン大統領が登場した1992年、米ソ冷戦が終了したばかりの米国は、第一次湾岸戦争後の暗い景気のなかにあった。元クリントン大統領は「中間層の繁栄」を訴え、それから二期続いたクリントン政権はIT革命と好景気をもたらし、おかげで失業率は減り、労働生産性は上昇し、ウォール街は活況に沸いた。米国の有力世論調査会社ギャラップ社によれば、国民の満足度は1992年で24%だったが、2000年には69%まで上昇した。今でもクリントン元大統領の人気が高いのは、任期中に中間層の満足度を実際に上げた功績に寄るところが大きい。

 

http://www.gallup.com/poll/151979/national-satisfaction-slightly-start-2012.aspx

 

ヒラリー・クリントン候補もまた「中間層の生活向上」を政治目標に掲げている。実際、1990年代初頭から米国労働者の賃金水準はそれほど上昇していない。また、ギャロップ調査によれば、2011年から国民の満足度は11% 〜18%と低迷している。彼女の戦いはこれからである。

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