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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

人民元の国際化で米中通貨戦争が本格化

 本日、日経平均株価が続落しています。この下げ基調は、今年8月頃までは底を這うように続きます。信用買いの投資家たちが追証で売り急ぐために、少し相場が上がってもその後に売りが優勢となり、相場を押し下げます。個人投資家の皆様は、慎重に行動してください。

 年明けから北朝鮮や南沙諸島の問題など、地政学リスクが高まるそのウラで、米中の通貨戦争が進行している。

 かつての日米貿易戦争をふりかえると、今後の米中関係が見えてくるように思う。1970年代は日本の繊維産業が、そして、80年代は自動車産業が米国製品を圧倒した。米国側に貿易赤字が累積し、かつ、戦争が長引き軍事費がかさみ、財政赤字が深刻化すると、米国は基軸通貨ドルを自国に有利になるよう操作した。ベトナム戦争が長期化した70年代、ニクソン大統領は固定相場制から変動相場制へと切り替えた。また、米ソ冷戦で多額の軍事予算を使い勝利したレーガン大統領は、プラザ合意で円高に誘導した。

 中国は昨年から人民元切り下げを実施してきたが、米国は人民元高へ誘導する用意が有ると思われる。米国の経常赤字は2013年12月以降、GDPの236%に膨らんでいる。

CNBC(1月11日付)” The 2016 market dive explained in one chart” by Daniel Alpert, managing partner, Westwood Capital

http://www.cnbc.com/2016/01/11/the-2016-market-dive-explained-in-one-chart-commentary.html

 多くの貿易相手国がデフレで自国通貨を切り下げるなか、米国に最大の経常赤字を計上しているが中国である。その中国がさらなる「通貨安戦争」を仕掛ければ、米国の経済成長が阻まれる事になる。加えて、米国は「テロとの戦い」で多大な戦費を支出しており、財政赤字や債務問題は待ったなしである。このままでは済まない。

 プラザ合意の1985年以降、日本の大企業は資本市場から低金利で資金を調達し財テクで大きな利ざやを稼ぎ出した。バブル生成期にはこの財テクが流行し、企業債務が急速に膨張した。そして、バブル破たんとともに失敗した財テクは不良資産の山となり、銀行も多大な損失に苦しんだ。同様のことが、中国の企業債務急拡大に見て取れる。歴史は繰り返すのだろうか。

 関辰一氏の論文「限界に向かう中国の企業債務拡大;バブル期の日本と似た様相」(環太平洋ビジネス情報 2015年)に中国の財テクの詳細が描かれている。

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/8157.pdf

 中国の家計・企業(非金融)・政府の総債務残高は、過去4年間で50%増加し、名目GDPの240%にも及ぶ。特に企業債務が占める割合は高く、2013年では、総債務残高129兆元のうち企業債務残高は86兆元である。こうした企業債務の急増の要因は財テクである。

 同氏によれば、中国の財テクでは、企業は債券市場で資金を調達し、銀行を経由して高利率で貸し付ける(委託融資)。特に国有企業は社債発行で低利(6.6%)で調達した資金を他社に貸付け、18-19.2%で貸付け大きな利ざやを稼ぐという。また、企業は委託融資に加え、理財商品、シャドーバンキング商品で運用するほか、銅や鉄鉱石等の商品市場、不動産市場、ゴルフ会員権といった投機的な動きをしている。そのため、元高で実体経済が減速を速めれば、サブプライムローン以上に不良債権が信用市場を逼迫させる可能性がある。

エコノミスト誌(1月7日付)”Is this really 2008 all over again”

http://www.economist.com/blogs/buttonwood/2016/01/markets%2520%2520%2520?cid1=cust%2Fnoenew%2Fn%2Fn%2Fn%2F20160111n%2Fowned%2Fn%2Fn%2Fnwl%2Fn%2Fn%2FNA%2Femail

 一方、香港などオフショアの外国為替市場では大規模な元買い・ドル売り介入があり、人民元安はドル建て負債を抱える中国にとって為替差損を膨らませるので、過度な元安の不均衡は是正されるだろう。しかし、元高だからといって中国国内からのいっそうの資本流出(逃避)を食い止めることが出来るだろうか。中国が人民元の国際化を目指すなか、米中の通貨戦争はこれから本格化していくと予想される。

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