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国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

米国経済だけが強くなる理由「プラットフォーム・エコノミー」について。日本は?

米国株式市場はダウ平均株価もナスダック総合指数もそろって最高値を更新した。英国のEU離脱や世界経済の成長率が下方修正され、先進諸国の中央銀行が金融緩和を続けるなか、米国経済だけが強くなっているのだろうか。

米国の最も輝かしい企業といえばアップル社に代表されるIT企業である。ITセクターはS&P500指数の時価総額の五分の一を占め、目下ITバブル復活といわれるほど活況を呈している。ニューヨーク連銀総裁ダドリー氏が9月にも利上げ実施の可能性を示唆し、株価上昇の一方で、中央銀行相場にも出口が近づいている。

ただFRBの利上げのペースは穏やかであり、ITセクターを中核とした株高と、インフレなき成長が期待されている。新たな「プラットフォーム・エコノミー」によって産業構造や労働市場など経済そのものが変化してゆくからである。

1990年台後半のドットコムバブルではIT革命に牽引される「ニューエコノミー」が現れたが、今回は需要サイドに大きな影響を及ぼすプラットフォーム・エコノミーがさらなるパラダイムシフトを起こしつつある。その担い手がミレニアル世代(18〜35歳)である。

プラットフォーム・エコノミーを可能にしたのが、ビッグデータ、アルゴリズム、クラウドコンピューティングであり、グーグル、アマゾン、フェイスブック、セールスフォース、ウーバーなど主要IT企業がこぞって最新技術を駆使し、新たなサービスを提供している。そして、こうしたサービスの恩恵を最も受けているのがミレニアル世代と言われている。

この世代の特徴は、モノを持たない、カネのかかることはしない、なるべくシェアする傾向が強い。たしかに大学を卒業しても学生ローンの返済に追われ、安定した正規雇用の職にはなかなかつけない、持ち家や車も欲しいと思わない。加えて、オンラインで働く比率が高いこの世代は、所得が一定せず、生活のボラティリティが高く、持ち家による従来のような資産形成が起こりにくい。こうした事情から、この世代が働き盛りになり家族を持っても、個人消費が急に増え、景気が過熱し、インフレ懸念が高まるという事態は需要サイドからは描きにくい。

逆に、イノベーションが牽引するプラットフォーム・エコノミーが進化するにつれて、再生可能エネルギーの使用でライフスタイルはよりエコになり、シェアリングで効率的になる。政府が有効需要を作り出す事もなく、サプライサイドがコントロールすることもない。より自律的な社会がやってくるような気がする。しかし、その前に、貧富の格差問題など多くの課題に取り組むべきだろう。

日本のプラットフォーム・エコノミーについて

世界が大きくパラダイムシフトに動くなか、日本もプラットフォーム・エコノミーの潮流に乗って持続的成長が可能になるだろうか。元ムーディーズで日本の事業会社の信用格付けを担当してきた森田隆大氏は「中期経営計画から見る日本企業」(企業年金 2016年6月号)で、主要企業の中期計画を読み取りながら以下のように述べている。まとめると、まず、日本のリーディング企業は国内に将来の成長・収益機会が確保出来ないと認識しており、経営者にとって新興市場とどう取り組むかが課題になっている。しかし、財務リスクを取って大型M&Aを仕掛け、攻めの経営を行う姿勢は今の経営者には見られない。そのため、グローバル競争で優位に建てる規模に達している日本企業は少ない。次に、日本企業の利益率は世界のリーディング企業に劣っている。日本の経営者はリスク回避型で経営資源を効率的に活用できていない。

また、今後、グローバル競争で勝ち抜くにはそれなりの人材確保が必要であり、そうしたことを認識はあるものの、多くの企業が対応策も打ち出していないと森田氏は指摘している。これが日本の主要企業を取り巻く現状であろう。

http://www.morita-associates.jp/blog/

なぜこうも行動が伴わないのか。終戦の焼け野原から70年もたち、高度成長期を駆け抜けた創業者が経営から退き、サラリーマン社長が三代も続けば、創業の精神は消えて行く。これが主な理由だと、あるオーナー経営者が語った。「オーナー家が命がけで心血・金を注いだ事業の価値を、雇われ社長が同じように理解できるか。年金も退職金も用意されて任期だけのサラリーマン社長は別世界の生き物」と付け加えた。

筆者は日刊工業新聞に毎週コラムを書いている。そのため、同紙を毎日読んで、ものづくりに真剣に取り組む日本の中堅中小企業の技術力の高さは素晴らしいと感じている。ところが、大企業のような情報量のない中堅中小企業が技術力だけでグローバル競争に勝つことは難しい。第一、技術力をもってひな形を作ったとしても、そこから実用化・事業化し、大量生産し、拡販するまでの道のりはけっこう厳しい。新たなビジネスモデルも必要だろう。

願わくば、日本でも技術力をバックにプラットフォーム・エコノミーが形成され、ミレニアル世代が自由に起業し、活躍する時代が来てほしい。しかし、そのためには、中堅中小企業や新事業をバックアップする資金が不可欠だし、変化の時局を制する政治力(経営力)も必要である。カネもリーダーシップも提供する強力なベンチャーキャピタルの支援が望ましいが、残念ながら、戦後日本のサラリーマン社会ではこの手のベンチャーキャピタリストは育っていない。

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