世界に波及するトランプ革命

公開日: : 大井リポート | 

 今年の後半、7月1日以降、世界の株式市場は英国のEU離脱とトランプ次期大統領の誕生という想定外のショックをものともせずに、上昇し続けてきた。つまり、金融市場はショックをバネに、プラス思考に転じているようにみえる。なぜなのか?

 私は大学院でアメリカ経済史を専攻し、また幸運にも福田歓一先生のもとで政治思想史を勉強する機会があったので、ホッブス、ロックからバーク、バジョットに至る流れをよく鑑みて、英米に共通する「トランプ革命」の根底にあるものは何か?変化の意味を考えてみたい。来年、英米の二大変化は、形を変えて世界に波及していくだろう。

 英国のEU離脱とトランプ政権の誕生は、一般にグローバリズムに対抗するポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭と考えられている。たしかにこの二大変化に共通するのは「反グローバリズム」ではある。米国の場合、その主体は決して白人労働者階級、ウォール街を占拠した一部の若者や左翼的な人々に限られない。思想史的にみると、米国のポピュリズムとは草の根的な民主主義と地域ヘゲモニーの復活である。

 もともと米国は英国から宗教的迫害を逃れて来たピューリタンたちが植民して作られた人工国家である。その後、米国は独立戦争で勝利し、英国の植民地から独立した。この独立期の経済的繁栄を支えたのが、民衆の利益を第一とした第3代ジェファーソン大統領の支持基盤となった独立自営農民「ヨーマン」である。王や貴族による既得権益のない米国で彼らが求めたのは宗教的自由とともに経済的自由であった。

 ピューリタン植民地時代から育んで来た直接民主主義が地域経済の拡大とともにジェファーソン流民主主義の潮流となり、「自助努力」を重んじる地方の中小企業の経営者、自営業者の政治信条となり、やがて共和党の広範な支持層を形成していく。彼らの敵は、政治利権に寄生する大商人や中央集権的な連邦主義者たちであった。

 このように思想史の観点からみれば、トランプ勝利の背景には、国際金融資本と一体化した大きな中央政府(オバマ政権)が税金と公務員の数ばかりを増やし、独立自営業者の経済的利益を損ねているという民衆の憤りがある。その意味で、トランプ勝利は単なるポピュリズムに支えられたのではない。米国の中西部や南部のジェファーソン主義の市民が民衆の手で「米国を再び偉大にする」という主旨に賛同し、リーマンショック後に巨大化した中央政府から「市場性」を取り戻し、民需主導の自立経済への期待感を高めたのだ。

 ちなみに、私の妹は米国人と結婚してマサチューセッツ州に暮らしている。彼女の夫の層祖父母は英国とポルトガルから移民してきた人々で、米国という大地で一から商売を立ち上げ、一生懸命生きて来た。このように苦労した独立自営業者たちが、NYのウォール街やシリコンバレーのITベンチャーを除く中西部や南部に「地の塩」のように広範囲に存在している。今は高学歴でホワイトカラー職にある彼らは(口には出して言わなかったが)トランプを支持し、変化を歓迎した。

 英国のEU離脱においても、EUの巨大官僚支配から自由を求める民衆の声なき声の後押しがあった。その余波はやがて日本にも押し寄せる。米国経済のグラスルーツは中小独立自営業者である。日本経済の主体もまた、中堅中小企業である。日本でも中央政府の「官制経済・金融体制」を打ち破り、国民経済に正常な市場性をもたらす強いリーダーシップが必要なときなのである。

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