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旧き良き時代の「米ソ冷戦」 大国はいかに生き延びることができるのか

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Reagan and Gorbachev hold discussions” by このファイルには作者に関する情報がありません。 – Ronald Reagan Presidential Library photo id C31982-11. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.

この1週間、グローバルな投資マネーはロシア株から流出し、日本株、米株そして、ロシアを除く新興国(インド、中国、ブラジル、トルコ)への流入が見られる。今後、クリミア半島やウクライナ一部のみならずロシア全体が不安定化するリスクを織り込んでくるのかもしれない。

プーチン大統領は、ピョートル大帝の栄光と自身を重ね、欧州と対等な「強いロシア」を目指し、ソ連崩壊後の国体を支えてきた。プーチン大統領は、2004年にウクライナのオレンジ革命を押さえ込み、2008年には南オセチア紛争で分離独立派に厳しく対処し、軍を強化し、統一国家としての面目を保ってきた。さらに、シリアへ武器援助し、米国に武力介入をさせずに睨みを利かせ、強いロシアを国民に印象づけ、人気を高めてきた。

しかし、7月17日のマレーシア機撃墜とその後の処理をめぐり、風向きが変わった。世界は、親ロシア派のやり過ぎをプーチン大統領側が抑えられないのか、あるいは、親ロシア派とプーチン率いるロシアとが一枚岩ではないのか、クレムリン内の権力闘争がどうなっているのか等々、ロシア国体の不安定化を警戒し始めている。

FT紙ウィークエンド版(7月26/27日)記事、“Collision course”によれば、マレーシア機撃墜以後、欧米を中心とした経済制裁がじわじわとロシア経済に響いて来ている。今年半年で資本逃避が760億ドルに達し、海外からの直接投資は昨年比50%減。今後12ヶ月で満期を迎えロシアの銀行が海外に支払わなければならない負債が1,610億ドル。今年のGDP成長率は0.5% 程度と低く見積もられ、さらに景気が冷えこんでくる。このまま経済制裁が続けば、ロシアは政治的妥協をせざるを得ないだろう。その一方で、戦闘はエスカレートしそうだ。

 

http://www.nytimes.com/2014/07/26/world/europe/russian-artillery-fires-into-ukraine-kiev-says.html?_r=0

 

プーチンは、富国強兵の国家目標を優先させ、自由経済や人権を抑圧してきた。しかし、経済成長の伴わない統一国家は、チェチェンなど少数民族抑圧やイスラム過激派テロ組織を敵に回し、失業と社会不安が蔓延する不安定化に突き進む。さらに、ロシアの不安定化は、ユーラシア大陸に点在する少数民族を導火線に大陸全体へと波及するだろう。

さて、米国に目を向けると、10月で3度にわたった量的緩和(QE3)が終了するとみられ、11月の中間選挙を控え、オバマ対クリントンといった内部の権力闘争やスキャンダルが表面化し、国内政治もまた混迷しそうだ。

マレーシア機撃墜で米ソ冷戦時代に戻るといった意見もあったが、それは既に大昔の話。大国として、そしてそのリーダーとしてどう生き残っていくのか。プーチンもオバマも内外に敵を抱え、同じ課題に取り組んでいる。

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