グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

第三次大戦は既に始まっている!?  シリアにおける邦人殺害事件の真相・深層に迫る

 

今回は小松啓一郎博士との対談で、シリアにおける邦人殺害事件の真相・深層に迫ります。

 

小松 啓一郎博士 プロフィール

英国オックスフォード大学大学院で博士号取得(政治学・国際関係論)。商工中金(東京)勤務後、米国NYで為替トレーダー。以後、世界銀行、英国通商産業省、英国海外貿易総省、マダガスカル共和国大統領特別顧問他を経て、現在、グローバル規模でカントリーリスク情報・ビジネス開拓の助言・実行支援を行うKomatsu Research & Advisory(KRA)代表。

 

小松先生とは、2013年10月に対談を行いました。

「避けられた戦争:パーセプション・ギャップの積み重ねが平和を壊す」

https://globalstream-news.com/wpgsn/tsuwamono/tsuwamono-10172013/

 

 

 22分の「イスラム国」の処刑動画

 

大井: 先日、「イスラム国」で人質となっているヨルダン空軍パイロットの処刑を含む22分余りの動画が公開されました。

私は、英系BBC放送で流れたほんの数分間の映像を見ました。生きたまま焼かれるシーンはさすがにカットしてありました。

背筋が凍るように残忍で、世界がいつまで「イスラム国」を放置しておけるのかと思います。

 

そして、今回の人質事件に関しても日本側が本当にどこまで独自にインテリジェンスをもって動けたのか、よく分かりません。

まともなインテリジェンス無しに有志連合と行動を共にすると言っても、竹槍とバケツ・リレーで参戦するようなものです。

まず、先生は22分のオリジナル動画をご覧になって「イスラム国」をどのようにお考えになりますか?

 

 

小松: 22分余りのバージョンの動画には、全編を通じて大変なシーンが次々に出てきます。

例えば、処刑されたパイロットが所属するヨルダン空軍の作戦室内で出撃準備中のシーンと思われる光景が映し出されています。

「イスラム国」への空爆に参加するパイロット一人ひとりの顔が鮮明に映っていますし、指揮官の説明やパイロットが渡されている機密作戦指示書までが動画でズーム・アップされたりしています。

普通に考えれば、あれは極秘中の極秘シーンのはずです。

 

また、ヨルダン空軍基地内の滑走路上で戦闘爆撃機が次々に出撃していく様子や、基地の上空写真まで含まれています。

さらに、有志連合に参加している中東・北アフリカ諸国の各基地のみならず、欧米側の有志連合参加国の基地内の建物や滑走路に至るまで詳細な航空写真が次から次へと出て来ます。

上空写真ともなると、人口衛星からの画像や映像なのか、それとも、ヨルダン軍機のコクピット内から撮影された写真なのかもしれません。

 

あれだけ基地内の構造を上空からつぶさに見られているのだとすれば、「イスラム国」側のロケット弾やミサイル弾でも簡単に基地内の施設や軍用機を破壊されてしまう危険性も出てきます。

因みに、昨年(2014年)の夏にイスラエル軍がパレスチナのガザ地区に進行した戦闘では、イスラム武装組織ハマスのロケット弾が実に70キロ前後もの射程距離を見せつけたことで、前回までのガザ戦争当時とは武器の性能が様変わりしていることも分かっています。

 

「イスラム国」がインターネット上にアップロードした22分間動画内の画像や映像のうち、どれが公開写真からの転載で、どれが機密の映像なのかを判断するのも難しいところですが、いずれにしても、あれだけの軍事機密情報が筒抜けになっているのでは有志連合側も真っ青になっているはずです。

 

他方、あの22分間動画には有志連合側が国際メディアで公開してきた生々しい空爆映像もふんだんに含まれています。それは有志連合側の誘導ミサイルに取り付けられたカメラ・レンズが捉えている数々の映像です。

地上の標的とされる車両や建造物に向かって刻々と迫る誘導ミサイル上からの映像や画像が浮かび、それが着弾して大爆発する瞬間の映像などです。

あの22分間動画では、それに続いて、地上で犠牲となった黒焦げの幼児の遺体が、これでもか、これでもか、と出てきます。生きたまま焼かれて苦痛にゆがんだ表情の幼児の黒焦げ遺体の映像が有志連合側の爆撃映像と交互に組み合わされてまとめられています。

 

要するに、有志連合側のパイロットたちが勇ましく空爆している下で、実態としては罪の無い市民や赤ん坊が生きたまま焼かれて、苦しみもがきながら亡くなっていく残虐な現実を実に生々しく指摘している動画でもあります。

これは太平洋戦争中に連合軍による空襲下で多数の焼け焦げ遺体を見ざるを得なかった世代の日本人には直ぐに思い描けるシーンのはずですが、あの当時も高高度の安全圏から空襲していた連合軍機の航空兵たちの目には全く見えない光景だったことが知られています。

しかし、空爆下で暮らす人々の目には今もなお「お馴染み」の光景となってしまっています。あの22分間バージョンのビデオは地上にいる人々の強い思いに訴えかける構成にもなっているわけです。

 

しかも、あの22分間動画の編集技術が余りにも洗練されているため、ハリウッドでさえ驚いたとされています。

動画ではその後、今度は檻に入ったパイロットがしばらく頭を垂れて自らの空爆で焼き殺してしまった市民や幼児たちに思いを馳せているかのようなシーンの後、処刑の火が放たれる様子が映し出されます。

そして、迫る火炎を前にしたパイロットが静かに祈るように両手を合わせる姿が見え、悲惨な焼死へのシーンに繋がっていきます。

 

大井: ヨルダン空軍内部の機密映像など、本当に内部の者しか知り得ない情報のはずですね。「イスラム国」が有志連合軍のコンピュータ・システムをハッキングして、いろいろな情報にアクセスしているとか、内通者がいるということにでもなれば、「イスラム国」はインテリジェンスにおいて日本よりも遥かに優れていますね。

そして、日本人の一部はそういう強力な勢力を相手に、本当に自衛隊の派遣で人質救出が可能だと思ってしまっているのでしょうか。必要なら武力行使もあり得るという新しい国家方針が確立された場合、有志連合軍でさえ真っ青になってしまうような相手をハッキリと「敵」と見なし、戦おうとするなど、いったい何故、そこまでの計算違いをして、ズレまくるのでしょうか?

 

フランス版「9・11」の意味

 

小松: 御存知のように、本年(2015年)の年明け、1月7日にフランスでは風刺画で有名な週刊誌発行元のシャルリー・エブド社が過激派に襲撃され、編集者ら多くの人々が殺害されました。

実際、同社が繰り返し発行してきた風刺画にはイスラム教の始祖マホメットが全裸で他のアラビア服の男性と極度に品の無い性的言動をしていたり、イスラム教徒の女性が丸裸の姿で走っていたり、ここでは公けに語れないような度の過ぎたヒドいものが目立ちます。

これを侮辱と感じたイスラム教徒から中止を要請する陳情や抗議が続き、いろいろな批判があっても、同社は延々と同様のものを発行し続けてきました。

 

これに対する反風刺画の多発報復襲撃事件は、たった3人の戦闘員が10万人規模もの治安当局部隊を3日間にもわたって神出鬼没の作戦で翻弄し続け、最後には誰も逮捕されずに射殺または自爆で終わってしまったという物凄さでした。

フランス国内ではこれが「9・11」並みと言われるほどの衝撃を与え、イスラム教徒全体に対する嫌悪も膨らみました。

 

これを受けて「反テロのデモ」=「言論の自由を守るデモ」が起こり、その参加者がフランス国内だけでも370万人にも達したとされる一方、同じ1月7日から1週間だけでもイスラム教の礼拝堂であるモスクへの多数の火炎瓶の投げ込み事件や何発もの手榴弾の投げ込み事件が26回も起き、月末までの約3週間には「斬首」された豚の頭をモスクの前に置くなどの嫌がらせまで含めると、実に百数十回もの事件が頻発しました。

しかも、この数字にはパリ市内やパリ近郊での事件は含まれていません。この状況に反発した反欧州デモが北アフリカ諸国を中心に激しくなり、マリ共和国やニジェールの国内では警官隊との衝突が繰り返されて次々に死者が出る事態にもなってしまいました。

 

つまり、地中海を挟んで南北両側で相互に反発する大規模かつ暴力的なデモやテロ攻撃が頻発しているわけです。

さすがにフランスのオランド大統領は「一般のイスラム教徒と過激派を区別すべきだ」と発言しました。また、ローマ法王も「他宗教を侮辱するのはいけない」と異文化尊重の重要性を訴えました。

それでも、これらの声がかき消されてしまうような欧州社会のムードに変わってきました。これでは、もはや「対テロ戦争」と言うよりも、単なる「異文明圏同士の紛争」に堕してしまった観さえあります。

 

 

テロに立ち向かうか?日本外交の有効性

 

そのような状況下、中東諸国歴訪に出掛けた安倍首相が1月17日にカイロで演説をします。そして、その直後の19日−31日にかけて日本人人質斬首事件が起こりました。

遅くとも1月20日までに「イスラム国」がアップロードした脅迫ビデオの中では、安倍首相の演説が引用されてしまい、激しいトーンでの批判が含まれていました。しかし、首相による演説の中では「有志連合への軍事協力」が表明されていたわけではなくて、「中庸」と「非軍事」の姿勢に基づく支援が強調されていました。

 

この演説は実に素晴らしいものでした。「中庸が肝心」というアラビア社会の伝統的価値観をアラビア語で何回も繰り返し、日本がそれに呼応・協力して経済的・社会的安定性を確保し、過激な活動への動機を弱め、中庸で平和な社会をつくるのだという立派な解決策を示した演説です。

また、非軍事支援の中身についても、具体的に地下鉄工事のようなインフラ整備や難民救済のような人道支援という資金使途について、わざわざ例をあげて言及しているほどでした。

 

ただし、惜しむらくはそれを打ち消してしまうような決定的な一言、「イスラム国」と闘う(戦う)国々に向けて2億米ドルを新たに支援するのだという「誤解」を生むような言葉が混じっていたのです。

このことが結果的には演説の真意について欧米側とイスラム過激派の双方に重大な誤解を広めてしまうきっかけになってしまいました。

 

実際、私のオフィス(在ロンドン)でも、総理のカイロ演説直後の翌18日と19日には欧州側の数カ国のインテリジェンス関係者から「日本はISILと闘っている有志連合に2億ドルの支援をすることで、ついに実質的に対ISIL戦争に参加することになったと判断していいか」との問い合わせを繰り返し受けて驚きました。

彼らの意識の中には、総理演説に含まれていた「中庸が肝心」や「非軍事分野」という大事な概念がスッポリと抜け落ちていました。

 

安倍首相の演説の中には、敢えて「この困難」に立ち向かう国を支援するとの表現だけで、個別名称を出さずに済ませている部分もあります。もし、そういう文言だけであれば、誰も敵に回すようなことにならずに済んだとの指摘も聞かれます。

しかし、「イスラム国との闘い(戦い)」とまで発言してしまっては、どうにも相手側に対して説明のしようが無くなってしまいます。これが日系企業の一部からも「一言多い」と指摘されています。

そして、この部分によって、明確に日本人全体が標的になってしまったと危惧する声も多く聞かれます。日本国内とは違って、現地にいて、特にリスクの高い事案で頑張っている日系企業の人々が抱くことになった不安感は非常に深刻なものです。

 

大井: それは、首相個人の好戦的ともとれる姿勢を欧米に示すものだったのでしょうか?つまり、国内で憲法改正につながる導線としたかったとの解釈も見られます。

あるいは、欧米側には日本だけがテロから逃げ回っているという誤解がありますから、首相の立場として「そうではない、正面から立ち向かう」という「強い日本」を見せて「積極的平和主義」を掲げることで、欧米と対等に活躍していくのだという意気込みを示したかったのでしょうか?

 

小松: むしろ、欧米側の一部に「イスラム過激派との戦争に日本も軍事、資金の両面で巻き込みたい」という強い思いが作用していたようにも思います。

欧米側がどこまで意識的な戦略として日本を巻き込もうとしたのかは別の問題ですが、日本を巻き込みたいという一部の欧米側の心理が背景にあるのは確かです。したがって、日本がそれに乗せられて、単に際限の無い紛争に巻き込まれていくことになるのかどうか、という点に尽きると思います。

今後は、国際社会の中に日本への重大な誤解が生じているのかどうかをこれまで以上に注意深く観察する必要があると思います。そして、どこかに誤解があれば、間髪を入れずに有力メディアなどを通じて正していかなければなりません。そうした努力を不断に続ける必要があります。

他方、日本には米国のCNNやカタールのアルジャジーラ、英国のBBCワールドのように国際社会で広く視聴されるメディア手段が見当たらないのがつらいところです。海外に向けて強力な発信力のある国際メディアが未だに無いという重大問題があるのです。

 

「イスラム国」の22分間バージョン動画の最後の部分では、ヨルダン空軍の他のパイロット一人ひとりの顔写真や実名などの個人情報までが公開されてしまっており、家族が住んでいる場所まで航空写真でピン・ポイントに示されています。

それで、「神の教えを守って彼らを殺害した者には懸賞金を支払う」などと締めくくられています。あれでは、他の空軍パイロットたちも自らの安全のみならず、家族の安全も守れないという不安に襲われてしまうことになります。

日本の将来についても、自衛隊員であれ、それ以外の日本人であれ、家族も守れないのでは立ち向かう気になれなくなる懸念があります。

 

日本としても、あらぬ誤解を解いていかないと、企業人を含む日本国民が次から次へと標的になる懸念が大きくなっています。今回の一連の事件をきっかけに、暫くの間は日本人が攻撃される危険性も桁違いに増してしまったことは明らかだと認めなければなりません。

かつてのように日本人が「運悪く襲撃事件に巻き込まれる」というタイプの事件もまだ起こり得るのでしょうが、それよりも、今後は特に「日本人だから」という理由だけで標的にされる事態も想定しなければならなくなってきました。

この「暫くの間」というのがどのぐらいの期間になるのかも分かりません。あるいは、欧米のように半「永久」になってしまうのか、これからの日本の政府、企業、国民一人ひとりの言動や対応によって大きく違ってくるでしょう。

 

想定される最悪のシナリオ

 

大井: 外務省はこれまでのところ、海外では人混みなどをウロウロしていると危険性が高いとしており、「不要不急」の事由でそういう場所に行くのを避けるとか、街中では日本人だと目立たないようにするとか、そうしたお達しを出しています。

 

小松: 実際のところ、「通り魔」的な攻撃要員による襲撃まで含めれば、自爆テロや無差別テロの危険性は学校や病院、市場など、どこにでもあります。しかも、イスラム系過激派を敵に回せば、東はインドネシアから西はモロッコまでの広範囲にわたって危険性が存在することになります。

アジアやアフリカだけでなく、欧米でも同じように危険な状態になります。日系企業は世界中に進出しているわけですから、不用心な言動を繰り返していると、同時多発的に攻撃を受ける可能性も高まってきます。

 

今後、海外の日系企業が単に「日本人だから」という理由だけで次々に襲撃の対象になったりすれば、「撤退ラッシュ」のようなパニックもあり得るため、それこそ最悪のシナリオが動き始めます。日本国内では直ぐに食料危機やエネルギー危機が起こります。それだけは避けたいところです。

 

今年(2015年)に入ってから国際情勢が経済・安全保障の両面で一気に流動化してきた今のタイミングにあっては、憲法9条の改正や自衛隊派遣の範囲拡大へと法改正に踏み切ったり、場合によっては日系企業の海外権益、あるいは日本経済全体の権益が脅かされた場合の自衛隊派遣を可能にするといった新法案の可決というニュースが国際社会に大々的に流されたりすれば、「自国の経済権益を守るために戦争をする国」というイメージさえ広がってしまう危険性が非常に大きいと言えます。

 

大井: それでは、かつての「大東亜共栄圏」のようですね。終戦直前に日本軍が敗退するや否や、軍が支配した地域では軍票が紙くずとなり、国内に残る国民は食糧難で栄養失調、エネルギーもなく、終戦と同時にハイパー・インフレで国債が紙くずになったと、亡くなった祖父が話していました。

日本が戦争に巻き込まれるという事態を前提に考えれば、最悪のシナリオは「いつか来た道」になってしまうのでしょうか。私は、日本が外交や政治の舵取りを誤り、経済自体が成長どころか壊滅的な打撃を受ける事態を懸念しています。

 

紛争激化への経済的事情とは

 

小松: 「イスラム国」を創り出す環境要因が何かを充分に理解しておく必要があります。現地では恐ろしいほどの貧富格差、そして、富める支配層の凄まじい腐敗が大きな要因の一つになっています。

もともと、部族、宗派が複雑に利権を支配してきたイラクでは、サダム・フセイン政権の崩壊後も欧米型民主主義が行きわたるような要素が見えていません。一般の若者にとっては軍隊ぐらいしか安定した職業が無いのです。

 

実際、私自身もイラク内外の貿易・投資振興の目的で現地産業のプロモーションを目指してイラク入りを検討したことがありましたが、その際にも、例えば7人の閣僚に会うスケジュールを作れば、それをアレンジしてくれるはずの現地側の高官から、一人当たり30分の面会に100万円相当のおカネ、つまり「合計で700万円相当の支払い」を要請されて断念したことがあります。

閣僚の一部も含めて「新イラク国家」の政府高官の多くが各部族の族長やその取り巻きであるため、高官個人の懐に入れるおカネだけではなくて、それぞれの出身部族に還元するおカネも受け取りたいということのようでした。そうしなければ、自分の部族からの不満が高まり、地位を失ってしまう懸念もあるようです。

 

このように、新イラクになっても国家が回らないという現実があるわけです。

しかし、近代国家の仕組みとしては、閣僚であれ、高位の公務員であれ、公職にある者がそのようなおカネを個人的に受け取ってはならないのです。こうなると、イラクへの外資系企業のまともな投資拡大を期待すること自体が難しくなります。

来てくれるのはせいぜい、「投資家」と言うよりもオーバー・ナイトの超短期資金を回しているだけの「投機家」や、外国の民間軍事会社などに限られていきます。

 

これでは、現地の青年たちにとって、就職の機会がいつまで経っても生まれない。そうした部族対立、宗派対立を抱える微妙な利権バランスや極度の腐敗の上に、さらに欧米やロシアの民間軍事会社や素姓の分からない「NGO」までが入り込み、中国なども武器等を提供し、紛争を通して利権支配を重ねて来たことも残念ながら事実と認めるほかありません。

 

これからの日本がそのような現実を実感し、独自の効果的情報収集能力を育てることは非常に大切なことです。それ無しに、ただ闇雲に「集団的自衛権」を掲げて中東に自衛隊を送り込むような事態にでもなれば、日本人全体にとって極めて危険なことになります。

 

大井: 小松先生は、日本企業や日本政府はどのような対策をとればよいと思いますか?世界中の日系企業を自衛隊が守れるはずはありません。また、自衛隊員の多くは人命救助のイメージで入っている側面もあるので、人を殺戮する戦争に正当性を感じるでしょうか?

 

訳の分からない第三次世界大戦への危機、世界平和に貢献できる日本

 

小松: 「イスラム国」への攻撃については、ハンチントンの異文明圏間の対立、つまり、ここで言う「キリスト教文明圏」対「イスラム教文明圏」という異文明圏同士の対立という図式で考える人たちもいます。

 

少し個人的なことに触れてみますと、私は英国オックスフォード大学で博士号を取得する際、主にウィルフリッド・ナップ教授の教えを受けることができました。そのナップ先生は残念ながら2011年に亡くなられてしまったのですが、リビア内戦が本格化する直前の時期に次のように話された事を鮮明に覚えています。

 

「現在の事態がこのまま進んでいけば、不幸にして第三次世界大戦が始まってしまうことになる。振り返ってみれば、20世紀中の第一次世界大戦中も、第二次世界大戦中も、共通する特徴として世界各地のどこに行っても誰もが戦争をしている状況に陥ってしまった。その意味では、来たる第三次大戦も同じようなことになる。ただし、第一次大戦でも、第二次大戦でも、開戦日がハッキリとしており、終戦日も講和条約の調印があったので、ハッキリと特定日をもって終結できた。

しかし、次の第三次大戦はそうならない。むしろ、誰も知らないうちにいつの間にか大戦になっているだろうし、永久に終わらない戦争となる。リビア内戦の勃発でカダフィ政権打倒に動く反体制派へのテコ入れとして軍事介入を決定した英仏両国のトップ・リーダーたちは、自分がいかに危険なことをしているのかを知らないでいる。それが最も恐れるべき問題だ。」

 

実際、カダフィ政権打倒後にリビアで起こっていることを見れば、あの国が昔の3つの王国時代の領域を中心にほぼ三分裂してしまい、様々な武装勢力が入り込んで複雑な内戦が延々と続いています。

そして、かつての反体制派からはその後に多くの過激派組織が生まれ、世界中の武器商人が集まる「青空市場」になってしまっています。そのリビアでも最近、自ら「イスラム国」と名乗る新組織が出現し、シリア・イラク地方の元祖「イスラム国」と類似の活動を活発化させています。

 

さらに、忘れてはならないこととして、ロシア・ウクライナ紛争のほうも深刻化の一途を辿って一触即発状態になっています。

複雑化する一方の国際情勢下では、三つ巴、四つ巴、五つ巴、という訳の分からない第三次大戦に突入しそうな懸念があります。あるいは、既に突入しているのかもしれませんが、それでも火事は小さいうちに消しておく必要があります。

こうした環境において、この異文明圏同士の対立を際限の無い紛争から救うことができるのは、どちらにも属さない大国・日本だけかもしれません。つまり、日本には独自に紛争を止める重要な国際的役割があると思います。

 

日本には神仏習合の独自の世界観があり、しかも経済面での先進国かつ大国としての影響力があります。

その意味で、日本には自国の正確な立ち位置を認識し、それを国際社会に発信しつつ、今回のような人質事件の悲劇に直面してもなお、それに振り回されてブレること無く、実質的に国際社会に大きく貢献していく責任があります。

 

政府はあくまでも中立・非軍事という戦後日本の路線を変えないことが重要であり、誤解があれば丁寧に説明し、正していかなければなりません。そのためにも、まずは国家としての独自の情報収集能力を高めていかなければなりません。

 

邦人を守れ!日系企業のとるべき姿勢

 

日系企業が取るべき対策としては、まず、世界各地の活動拠点で地元の雇用者・被雇用者の間のコミュニケーション強化に努力するだけでなく、周辺地域の地元住民との信頼関係もしっかりと築き、企業としても独自の情報収集能力を高めていく必要があります。

 

同時に、世界各地に駐在する企業のスタッフ・従業員という個人レベルでも、外国人スタッフや周辺住民の誰かが日本を誤解している場合には、個別に丁寧に説明していく努力が必要だと思います。

そして、海外に展開中の各社のマネジメント側は、誰かが誤解している事実を発見したり、それを正すために説明したりした経緯を現地駐在の他の企業や日本国内の本社にも報告して現場の声を精力的に伝え、意見交換や情報交換に努めることが大切です。

 

また、本社側でも自社だけが孤立しないように同業他社や業界団体などを通して産業界全体としての情報と見解を集約し、政界も含む各界での軽率な言動をできるだけ慎むように訴えていかなければならないと思います。

 

大井: トップが現場の声をしっかり聞くという点が、じつは一番大事であり、日本の組織では難しい点ではないでしょうか。

 

小松先生、本日はアップツーデートで大変貴重な情報を有難うございました。

ヘッジファンドニュースレター

コメントは終了ですが、トラックバックピンポンは開いています。