グローバルストリームニュース
国際金融アナリストの大井幸子が、金融・経済情報の配信、ヘッジファンド投資手法の解説をしていきます。

シェールガス革命 ~ ミッチェルおじさんが開けた「パンドラの箱」

0

 

photo好調な「金融ツワモノブログ」5回目となりました。

引き続き、「シェールガス革命」について最新情報をお届けします。

 

今回は、国際エネルギーアナリスト、松井賢一先生にお話を伺いました。

松井先生は、ダニエル・ヤーギン氏と交流するなど世界のエネルギー資源問題に取り組んでこられました。

 

松井先生は、東京大学卒業後、日本エネルギー経済研究所を経て現在はIAEE( 国際エネルギー経済学会)の会長、APEC(アジア太平洋経済協力会議)EWG・エネルギーデータ分析専門家グループ議長、UN(国連)新再生可能エネルギー会議アドバイザー、などなど様々な場所でご活躍されています。

 

 

ポイント#1 価格決定力が市場を制する

 

大井: 松井先生は、人類の歴史とエネルギー資源という広い視野から啓蒙書をたくさんお書きになっています。

 

20世紀は石油と原子力、そして、21世紀に入り、再生可能エネルギーやシェールガスの時代となりました。今やエネルギー資源も多様化しています。

 

松井先生には、広くエネルギーと経済について、お話しを伺えればと思います。

 

 

松井: エネルギー資源は経済にとって安定供給されて初めて意味があります。石油も原子力もそうです。エネルギー資源は国家の経済に欠かせない公共性の高い性質上、価格を安定させる調整メカニズムが必要なのです。

 

石油についていえば、価格安定のためには、需要と供給のバランス調整が必要です。1970年代に、OPECが石油の生産量を縮小して「オイルショック」が起こりました。中東が欧米に飲み込まれないために行った措置です。

 

 

大井: 1960年代まではバレル当たり数ドルという安さでしたね。それまでは石油の価格は誰が決めていたのですか?

 

 

松井: 近代石油産業の揺籃期に原油の精製と石油の輸送を手がけるスタンダード・オイルを設立したロックフェラーは、相場の価格変動に関係なく原油を買取る仕組みを作りました。「公示価格」posted pricing systemです。

 

8339172179_b41b75f94c_z
Rockefeller Standard Oil by AK Rockefeller

 

大井: なるほど、それでスタンダード・オイル創設者のロックフェラー家は莫大な富を蓄積したわけですね。原油を掘り当てる人々は当時たくさんいたわけですから、その中でなぜロックフェラーが突出した成功をおさめたのでしょうか。

 

 

松井: ロックフェラーは優れたアイデアを断固たる経営戦略で実現したからです。

 

その後スタンダード・オイルは、BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)、ロイヤルダッチ、その他に4社を加え秘密裏に世界の石油市場をコントロールするシステムを作りました。のちに国際石油カルテルと呼ばれるようになったシステムです。

 

カルテルを形成するセブン・シスターズは、原油市場がどのように発展するかを予想し、価格も微妙に調整してきました。もちろん、独占禁止法に抵触するためカルテルは分割されましたが、彼らのシステムはマーケットの安定のためには暗黙のうちに必要とされていました。

 

大井: それでは、新しいエネルギーとして注目されているシェールガスについてはどうでしょうか?誰が新しいロックフェラーになるのでしょうか?あるいは国家が規制して価格をコントロールするのでしょうか?

 

松井: シェールガスはたしかにブームですね。既に掘りすぎて供給過剰になり、価格が安すぎて採算が取れずにつぶれて行く業者も出て来ています。

 

シェールガスは昔からその存在は知られていました。ブームがきた理由は、安いコストで採掘できるようになったためです。

4210057040_5156c0b6da_z
Gas Well at Sunset by Rich Anderson

その最大の貢献者がミッチェルおじさんです。

 

ジョージ・ミッチェル氏は1919年生まれですから、御年94歳。1998年に水圧破砕法を応用し、フラッキングという技術を開発しました。なんと70歳で、ブレークスルーを果たしたのです。

 

ミッチェルおじさんは、巨大資本やメジャーとは関わりなく、独立自尊。まさにアメリカン・アントレプレナーの典型的な人物です。アントレプレナーの心得とは、

 

第一にInnovative 革新的である、

第二にHard-working 一生懸命働く、

第三に、Independent 独立自尊であることなのです。

 

このすべてを体現しているのが、ミッチェルおじさんなのです。

 

 

大井: ミッチェルおじさんの功績については、松井先生同様、経済評論家の財部誠一さんも「シェールガス革命は米国だからこそ起こすことができた」と述べています。

 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130523/351714/?ST=mobile&P=3

 

また、財部さんが参考にしている野神隆之さんの報告書にもシェールガスについて詳しく書かれています。

 

http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/H24_Technology_Innovation/2-nogami.pdf

 

ところで、シェールガス革命でガス採掘のコストが安くなり、多くの事業者が参入し、掘って掘って掘りまくり、高いコストの在来型ガスを駆逐しているのかと思ったのです。が、先生が仰ったように、価格が崩れて採算が取れなくなり撤退するシェールガス会社も出て来ているようですね。

 

 

松井: そうです、安けりゃいいってものでもありません。問題の本質は、ミッチェルおじさんが「パンドラの箱」を開けてしまったことにあるのです。

 

石油、石炭、ガスといった天然資源に関しては、採掘条件で生産コストが異なりますし、地代も発生します。それぞれの資源に関わる生産者たちがスクラムを組んでルールを作り、仲良くやっていかないと、安定供給のための価格決定システムが機能しないのです。そうなると、様々な関連産業にとっても困ったことになります。

 

例えば、石油の歴史を見ると、1970年代のオイルショック以降の40年間で、世界の石油がエネルギー供給に占めるシェアーは激減しました。これは、生産コストが低くいにもかかわらず、消費者の弱みに付け込んでバレル当たり100ドル近くと高くしてしまったからです。談合システムがうまく機能しなくなったからです。

 

しかしながら、シェールガスやシェールオイルの登場で従来の石油供給者に対する需要の低下が加速するでしょう。もはや、OPECにとっては、中国とインドくらいしか頼りになりません。一般に、化石燃料については、どうしても中東や北アフリカといった政治的に不安定な地域がからんでおり、安定供給にはリスクが伴います。

 

ところで、シェールガスをはじめ天然ガスは、いままでローカルなエネルギーでした。国際的にもあまり取引されて来ませんでした。米国内でも州をまたぐ取引にはいろいろな規制があり、世界的な価格決定システムはまだ確立していません。だからこそ、ミッチェルおじさんのような独立系アントレプレナーの活躍の場があったのです。

 

今、アントレプレナーの力が押さえきれない勢いです。天然ガス市場のグローバル化によって、いずれは、天然ガス市場においてもロックフェラーのような存在が必要となるでしょうが、これはもう無理でしょう。

 

さきほど「パンドラの箱」が開いたと言いましたが、これは化石燃料エネルギーにとっては喜劇的悲劇の始まりを意味します。

 

 

ポイント#2  パンドラの箱を開けたシェールガス革命の次に来るもの

 

大井: 松井先生は、原子力にも詳しいです。今までの資源エネルギーの話の延長線上に、原子力はどのような位置を占めるのでしょうか?

 

 

松井: 当面頼らざるを得ないのは石油、石炭、天然ガスという天然資源エネルギーですが、これらのエネルギーが安定的な価格で供給されるには世界的な談合システムが必要ですがこれは不可能です。

 

原子力は、プルトニウムリウム利用を考えれば天然資源というより工業製品なので、安定的に供給が可能なエネルギーなのです

 

 

大井: 日本では福島原発事故以降、原子力発電は停止したままですが。

 

 

松井: もともと原子力発電は、原子力潜水艦用に開発された軍事技術でした。

 

世界の原子力発電の技術はこの技術をもとに開発された大型軽水炉が主流となっていますが、これには安全上問題があることは当初から指摘されていました。福島原発は、ゼネラル・エレクトリックが開発した初期の沸騰水型炉で、この指摘があたってしまいました。

 

しかし、原子力においてもまったく新しい時代が始まろうとしています。安全性の高い効率的な小型軽水炉や小型高速原子炉が開発されようとしています。しかも、今や19歳の天才科学者テイラー・ウィルソン君が自力でそれを創れると言っているのです。米国のアントレプレナーシップの底力はたいしたものです。

 

 

http://ansnuclearcafe.org/2013/05/17/nuclear-matinee-taylor-wilsons-small-modular-reactor/?utm_source=ANS+Nuclear+Cafe&utm_campaign=486c3fba54-RSS_EMAIL_CAMPAIGN&utm_medium=email&utm_term=0_94ab53d916-486c3fba54-287922785

 

 

大井: 原子力においても「パンドラの箱」が開かれたといってもよいのではないでしょうか。

ウィルソン君のような独立系アントレプレナーが優れたアイデアを世に出し、そこにベンチャー資金がつけば、カルテルや規制当局によるコントロールができなくなると思います。もちろん、電力価格など公共性の高い問題ですから、どこかで価格は収れんするのだと思いますが。難しい時代になりましたね。

 

 

ポイント#3 日本はどうする?

 

大井: こうした環境の変化において、日本のエネルギー資源政策はどうあるべきでしょうか?

 

 

松井: まず、天然資源において、日本には完全なエネルギー自立はありません。が、完全に近い形までは目指す必要があると思います。

 

 

大井: 日本にはメタンハイドレートがあり、また再生可能エネルギーの開発もありますが、まだまだ商業ベースにのるところまで至っていませんね。

 

 

松井: 日本は、国産エネルギーとして安定供給ができる体制にはなっていません。

 

長期的なエネルギー戦略を考えれば、政治的に安定した地域からシェールガスを輸入し、プルトニウムを使う小型原子力発電へ切り替えるなど、様々な政策を考え、実践する必要があります。

 

 

大井: 先生は 『原子力第三の道:豊かなエネルギー供給を目指して(仮題)』を執筆中でいらっしゃいます。出版を楽しみにしております。

本日は、どうも有り難うございました。

 

 


 

 

「シェールガス革命」については以下のツワモノブログ記事もぜひご覧になってください。

 

復活する地政学! シェールガス革命の地政学的な意味

 

国際エコノミスト今井澂(きよし)氏に聞く! 為替、株価の見通し、そしてシェールガス革命

 

 


 

 

松井賢一先生のプロフィールはこちらをご覧ください。

http://www.ecobeing.net/ecopeople/peo53/index.html

 

 

松井賢一先生は以下のような著作を出版されています。どうぞご参考にしてください。

エネルギー問題!
 

 

 

 

 

 

データから読み解くエネルギー問題
 

 

 

 

国際エネルギー・レジーム エネルギー・地球温暖化問題と知識

 

 

 

 

 

 

ヘッジファンドニュースレター

返信を残す

あなたのメールアドレスは公開されません。